「花さく島の女王」CD制作プロジェクトについて（2）

9月25日「自由が丘Kids Fes」では、「ラング童話全集1　みどりいろの童話集」より「花さく島の女王」をプロのナレーターの友川まりさんが、透き通った美声で朗読するのに、クラシックギタリストの佐藤洋平さんが、この物語のために作曲した伴奏を演奏するライブイベントが開催されます。まだ午後4時からの2nd Stageには、余裕がございます。お子さま連れの親子1組500円、お子さまのいらっしゃらない大人の方も、ひとり500円にてご参加いただけます。

ご予約は、03-5726-9936 PonoLipo Shopまで、お早めにどうぞ。




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 19世紀末、ロンドンに住む民族学者アンドリュー・ラングが、ヨーロッパ中、世界中の口頭伝承の物語を集めて出版した物語集のシリーズは、当時イギリスで大ヒットしたそうです。イギリスは、世界中に植民地を広げ、19世紀後半のヴィクトリア朝時代には、大英帝国の絶頂期を迎えていました。世界中から珍しい物品が、ロンドンに集まって来ており、それと一緒に世界中の珍しい物語を記した書籍なども集まって来たのだと思います。

 世界各地に散らばっていた、それまで個々の民族の中で口伝えで伝えられてきた民話や昔話、神話や伝説が、広く収集され、12冊の物語集としてまとめられて出版されたのです。ドイツの民話を集めたグリム童話や、アンデルセン自身の創作によるアンデルセン童話とは一線を画すグローバルな物語の収集と記録という、民俗学者らしい形の物語集です。

 日本では、ノーベル文学賞を受賞した作家川端康成氏と、詩人で著述家の野上彰氏のふたりが、各巻にバランスよくいろいろな物語を散りばめて、日本の民話も織り込み構成し直して、編訳という形で12冊の物語集として出版されました。最初に出版された東京創元社のシリーズから、ポプラ社発刊のシリーズ、そして偕成社文庫より出版されているシリーズと、少しずつ手が加えられ、元のラング童話全集とは、内容の異なる日本独自の物語集となっています。

偕成社文庫の「ラング世界童話全集」には、突拍子のない場面転換や、つじつまの合わない不思議な展開の物語も多く含まれています。まるで不思議な面白い夢を見て目覚めた時のような、得も言われぬ読後感があります。大学で心理学を専攻し、ユング心理学に傾倒してきた私には、「ラング世界童話全集」のこの不思議さは、ピンとくるものがありました。河合隼雄さんの表現するところの「心の深いところに働きかける」物語なのです。この「ラング世界童話全集」の持つ不思議な力を損なわないようにと、川端康成氏が意識して、愛弟子野上彰氏と一緒に苦心して編訳されたに違いないと思うのです。

 なぜなら、幼少の頃親を失い、血のつながった姉とも生き別れ、年老いて日々衰えていく祖父母の元に引き取られて暮らしながら思春期を過ごし、それを看取って天涯孤独の身の上で帝大生となり作家として文壇にデビューし、結婚するも実子に恵まれず養女をとって育て上げた川端康成氏の、家族の絆を切望しながらも恵まれず、常に孤独と対峙した人生を思うと、氏が「心の深いところに働きかける物語」というものに、とても鋭い感覚を持っていたのではないかと思うのです。川端氏の作品は、「恵まれない境遇にある全き孤独な人間でも、日々良きことを成し、良き人と出会い、ひたむきに生きていけば、美しく良き人生を送ることができる」という信念に貫かれています。孤独な境遇の中で、美しく良く生きるということを考え続けていく、その根底には、数多くの物語を吸収し、その力に支えられる体験があったのではと想像します。その川端氏と野上彰氏が、未来の子供たちにと遺してくれた、この「ラング世界童話集」を私自身全く知らずに生きてきたこともショックでした。この出会いは運命と思い詰めるほどの決意で、私はPonoLipo Shopで「ラング世界童話全集」を売り始めました。

 けれど、その良さ、面白さは、なかなか伝わらず、もどかしい思いを抱いて、なんとか、これを広め、多くの人に物語の力を味わってもらうことはできないものか。思いつめる中で、ふと数か月前に、突然閉店前のお店に飛び込みで「自分の作ったCDブックを置いてくれないか」と談判してきたクラシックギタリスト佐藤洋平さんのことが、頭に浮かんだのです。
（つづく）


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